研究概要 |
膵癌は予後不良な癌腫のひとつであり、新規膵癌治療を目指し膵癌の転移・浸潤に関与する遺伝子群の検索が多くなされてきた。膵癌切除例ではリンパ節転移が唯一の予後不良因子であることが報告され、膵癌リンパ節転移関連遺伝子の同定は予後予測マーカーのみならず新規膵癌治療の分子標的になり得ると考え、われわれは膵癌切除凍結サンプルを用いた網羅的遺伝子発現解析により膵癌リンパ節転移遺伝子を検索した。 根治切除した膵癌組織80例で、リンパ節転移陽性群を51例、陰性群を29例を対象とした。まず膵癌摘出標本の一部を凍結包埋し、その組織を9μmに薄切した。続いてヘマトキシレン染色をした後、膵癌腫瘍部を選択的にマイクロダイセクションし、膵癌細胞のみを回収した。回収した膵癌細胞から、RNeasy Micro Kit(QIAGEN)を用いてRNAを抽出した。そのRNAをAgilent 2100 Bioanalyzer(Agilent社)にてQualityをチェックし、RNAの質の指標であるRINが5.0以上であることを確認した。続いて膵癌組織RNA 100ngを用いて、RNAマクロアレイアッセイ(Affvmetrix社)を行った。逆転写酵素とpoly-Tプライマーを用いてcDNA合成を行い、T7RNAポリメラーゼを用い、2サイクル増幅させ、in vitro transcriptionを行った後、biotinにてラベル化した。15μg分のcRNAを35~200ntにたるように断片化し、GeneChip Human U133 plus 2.0 array(Affymetrix社)に注入し、17時間hybridizationを行った。Fluidics Station(Affymetrlx社)にてwash and stainを行い、Fluorometric scannerにてスキャンし、シグナル強度をGeneChip Operating Software(GCOS)で解析した。そのマイクロアレイデーターをDNA Chip softwareを用いて、Normalizationし、その絶対値をリンパ節転移陽性群と陰性群で比較解析した。その結果リンパ節転移陽性群で高発現しだ遺伝子29個と低発現した遺伝子17個を同定した。これらの遺伝子群は膵癌のリンパ節転移に強く相関する遺伝子群であり、これらの遺伝子群を立証するべく、免疫染色解析を行った。 その結果4遺伝子(AP2α, MUC17, LI-cadherin, XK)が、リンパ節転移陽性群と陰性群で差を認めた。臨床病理学的因子を含めた多変量解析では、これら4遺伝子のうちAP2α低発現とMUC17高発現の2遺伝子が、膵癌のリンパ節転移に有意に関与していることが分かった。さらに、AP2α低発現群とMUC17高発現群は、膵癌切除患者の予後不良因子であることが同定できた。 その結果を受けて、MUC17タンパクからHLA-A24に結合するペプチドを同定して、ワクチン療法に向けた基礎的検討を行った。
|