我々は、自己細胞から部分的リプログラミングによって心筋細胞への限定的な分化能(可塑性)を有する心筋幹/前駆様細胞(Cardiac stem/progenitor-like cells)を作製することで、そのまま心筋再生治療に利用できる有用な細胞ソースになるのではないかと仮説を立てた。そこで、本研究では、部分的リプログラミングという斬新な概念に基づき、遺伝子操作技術による心筋幹/前駆様細胞の樹立および心筋再生治療への応用の可能性について検証することを目的とした。21年度は、遺伝子導入によって、心筋幹/前駆様細胞を作製できるか否かの検証を行った。心臓由来培養cardiosphere-derived cellsや線維芽細胞に、心筋の早期形成に必要な遺伝子(Nkx2.5など)、心筋幹細胞に多く発現している遺伝子(lslet-1、c-kitなど)や、内皮前駆細胞のマーカーとして知られている遺伝子(Flk-1)などをプラスミドベクターで導入することで、心筋幹/前駆様細胞の作製を試みた。Flk-1導入によって心筋や内皮への分化能を有する幹/前駆様細胞が誘導された。また、Flk-1とNkx2.5導入によって、心筋細胞への分化効率がより高く、一部が平滑筋と内皮細胞へ分化するといった幹/前駆様細胞が誘導された。一方で、Islet-1とc-kitの導入では効率的な分化能を有する幹/前駆様細胞を誘導できなかった。以上の結果から、部分的リプログラミングによって、心筋幹/前駆様細胞を作製できる可能性が示唆された。
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