研究概要 |
近年急速に増加している悪性胸膜中皮腫は、その腫瘍の分子生物学特性や免疫学的応答について、未だ不明な点が多い。本研究では、悪性胸膜中皮腫の進展形式に着目し、腫瘍細胞上の接着分子発現および情報伝達を解析することにより、腫瘍の発育・進展を制御する手法を見出すことを目的とする。悪性胸膜中皮腫症例の胸水中に多量に存在するヒアルロン酸のレセプターであるCD44は、転移能の獲得に関連していることが他の癌腫で明らかにされている。当科で樹立した悪性胸膜中皮腫細胞株を含む4株(K921MSO,L324MSO、ACC-MESO-1,ACC-MESO-4)において細胞表面のCD44をフローサイトメトリーで解析したところ4株とも非常に高い発現を認めた。ヒアルロン酸の、悪性胸膜中皮腫細胞上に高発現するCD44分子に対する影響を検討するために、分子量の異なる(6.9KDa,40KDa,200KDa)のヒアルロン酸を、4種の悪性胸膜中皮腫細胞株に添加培養を行い、細胞株上のCD44分子の発現の変化を解析したところ、いずれの細胞株においてもヒアルロン酸添加によりCD44の発現低下を認めた。さらに、ヒアルロン酸を添加した悪性胸膜中皮腫細胞の培養上清中の可溶性CD44をELISAで測定したところ、ヒアルロン酸非添加のコントロールと比較して、高い可溶性CD44の検出を認めた。これらの結果より、ヒアルロン酸が悪性胸膜中皮腫細胞と結合することにより、細胞表面上のCD44が切り離され、CD44の細胞表面の発現が低下したことが考えられる。H22年度は、このような変化に伴う、腫瘍細胞の浸潤能や、細胞障害性T細胞からの認識の変化を検討する。
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