本年度の計画においては、神経膠腫細胞浸潤におけるArf6の関与の普遍性について確定することを第一としていた。その点において、 1. Arf6ノックダウンおよびArf6下流因子AMAP1発現の検討より、C6細胞においてはArf6シグナル系が浸潤性に寄与していることが明らかとなった。しかしながらその活性への寄与は部分的であると考えられた。 2. 一方SF268細胞など、Arf6低発現下でかつ高浸潤性をしめす細胞において、発現しているArf6には活性化型変異は観察されず、またAMAP1発現も低かったことから、これらの細胞においてArf6は高浸潤性の要因たり得ないと考えられた。このことはすなわち、神経膠腫細胞の浸潤様式には、少なくともArf6依存的および非依存的などの多様性が存在することを明示しており、そのことは神経膠腫浸潤抑制の困難さの一因足りうると考えられた。そこで、「神経膠腫細胞浸潤の多様な様式間において共通して機能している分子機構」を知ることが神経膠腫浸潤抑制を実現するうえで必須と考え、そうした因子の検索を行った。星状細胞は神経膠腫の発生源と理解されているので、本細胞の初代培養細胞を比較対象とした。 3. その結果、神経膠腫細胞において発現亢進を示す候補分子を見出した。 4. さらに、その分子のノックダウンおよび阻害剤により神経膠腫細胞浸潤活性が抑制出来ることを観察したことから、本因子の阻害による神経膠腫浸潤抑制治療が構築できる可能性が拓けたと考えられる。現在論文化に先立つ特許申請を準備中である。また本因子機能のさらなる解析のため、計画を変更して機器の導入を行った。
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