研究概要 |
本年度は、正常ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(human umbilical vein endothelial cells, HUVEC)を用いて、敗血症病態形成におけるNADPHオキシダーゼ-1(Nox1)の役割を検討した。 先ずLPS刺激によりHUVECがIL-8ならびに活性酸素(ROS)を産生することを確認した。次にIL-8刺激によりHUVECがROSを産生すること、IL-8誘導ROS産生はLPS誘導ROS産生(2時間以上)に比べ、短時間(1時間以内)であること、IL-8受容体(CXCR1, 2)の中和抗体やIL-8特異的siRNAの前処理によりLPS誘導ROS庫生が部分的に抑制されることを明らかにした。これらの所見から、HUVECにおいて、LPS刺激によるROS産生はIL-8を介することが示唆され,た。また、LPSおよびIL-8誘導ROS産生はNox阻害剤であるDPIの前処理により完全に抑制されることから、両者ともにNox依存性であることが明らかとなった。現在までにNoxは5種類のアイソザイムが知られており(Nox1-5)、HUVECにおけるNoxファミリーのmRNA発現を検討したところ、Nox2, 4は恒常的に発見し、Nox1はLPSやIL-8刺激により誘導されることが明らかとなった。誘導型NoxであるNox1の生体内の役割は不詳な点が多く、敗血症病態への関与は明らかでなかったため、Nox1に焦点を当てて検討を行った。その結果、Nox1特異的siRNAでHUVECを処理したところ、LPS誘導ROS産生は有意に抑制された。 敗血症において、播種性血管内凝固症候群(DIC)は重要な合併症の一つであり、DICの発症には凝固カスケードの最上流に位置する組織因子(tissue factor, TF)の発現が重要な役割を果たす。TF発現はLPS刺激により誘導されるが、ROS消去剤であるNACの前処理によりLPS誘導TFの発現が抑制され、TF発現におけるROSの関与を示した。また、IL-8およびNox1各々の特異的siRNAをHUVECに導入したところ、LPS誘導TF発現が抑制された。以上の所見から、HUVECにおいて、LPS刺激は先ずIL-8産生を誘導し、次いでNox1発現を介してROSを産生し、さらにROSはTFの発現を誘導することが明らかとなった。
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