本研究の目的は、前立腺癌におけるニッチ細胞の同定およびニッチ細胞による前立腺癌幹細胞の支持機構を解明し、アンドロゲン不応性との関連を検討することである。 まず、アンドロゲン感受性ヒト前立腺癌細胞株であるLNCaPのspheroid培養系を樹立した。血清を加えた場合、通常のLNCaP細胞はsphroidを形成するが、無血清培地においてはsphroidの形成は認められなかった。Hoechst33342染色とフローサイトメトリーを用いてLNCaP細胞のside population(SP)細胞とnon-SP細胞を分離し無血清培地におけるspheroidの形成を検討したところ、SP細胞はspheroidを形成したのに対し、non-SP細胞ではspheroidの形成は認められなかった。 次に、LNCaP細胞を正常ヒト血管内皮細胞(HUVEC)、正常ヒト前立腺線維芽細胞(NHPF)、正常ヒト前立腺ストローマ細胞(PrSC)と共培養を行い、Hoechst33342染色とフローサイトメトリーを用いてSP細胞の変化を確認した。NHPFまたはPrSCとの共培養ではLNCaPのSP細胞分画に変化は認められなかったが、HUVECとの共培養においてLNCaPのSP細胞の割合が増加する可能性が示唆された。 また、アンドロゲン除去療法施行後に前立腺全摘術を行った症例における前立腺標本を用いた免疫組織染色による検討では、残存する前立腺癌の近傍にCD31陽性血管内皮細胞のdensityが高いことがわかった。 これまでの検討により、血管内皮細胞が前立腺癌幹細胞のニッチ細胞である可能性を示唆する結果が得られている。今後さらにマウスxenograftモデルを用いた確証実験を進めていく。さらに、同定したニッチ細胞が前立腺癌幹細胞を支持する機構を解明していく。
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