我々はがん特異的な抗原(がん抗原)を標的とする免疫治療の実現を目的に研究を進めている。本研究は前立腺がん特異的に発現する遺伝子PCDHllYbのCD8 T細胞エピトープおよびそのミモトープの同定を目的としている(ミモトープとはエピトープとは異なるアミノ酸配列でありながら同じCTLクローンを誘導しうるアミノ酸配列を意味する)。本年度の研究ではエピトープ配列の同定、さらに樹状細胞特異的な抗原レセプターDEC-205に対する抗体との融合タンパク質を用いた樹状細胞へのミモトープの効率的な標的化システムの構築を目的としていた。 1 前立腺がんの新規がん抗原PCDHllYbのCD8 T細胞エピトープおよびミモトープ配列同定 PCDHllYには十数種のアイソフォームが存在する事が知られている。前立腺がんで特異的に発現するPCDHllYbに特異的なアミノ酸配列の部分を用いて、HLA-A2結合モチーフを持つペプチドを選択し合成した。これらを用いてヒトHLAを発現するマウスより特異的CTLクローンを誘導する手法で実験を行った。現在まで有意な反応を示すクローンは得られていないが、得られたCTLクローンが認識するエピトープペプチドを改変し、より低濃度でCTL誘導能を示し、より強い細胞傷害能を持つミモトープ配列を同様に探索していくことを予定している。 2 CD8 T細胞ミモトープを運ぶ抗DEC-205融合抗体を構築する。 遺伝子工学的に同定したCD8 T細胞エピトープおよびミモトープ配列を運ぶ融合抗体を作成し、樹状細胞への標的化を試みる。ペクターの作成を終え、エピトープおよびミモトープ配列を組み込める段階までの準備が完了した。 3 ミモトープを用いて誘導したCTしが強い抗腫瘍効果を持つ事を示す。 前立膝がんのがん抗原(PCDHllYb)を発現するマウス癌細胞株を作製し、ミモトープを用いて誘導したCTLクローンがPCDHllYに対し強い細胞傷害能を持つ事をin vivoおよびin vitroの実験によって証明することを予定していたが、PCDHllY全長を発現する細胞株の産生が行えないことが判明した(マウス細胞への致死作用によると考えられる)。そこで幾つかの領域にわけPCDHllY断片を発現する細胞株を作成する作業を行った。 4 細胞外ドメイン特異的sc抗体の作成。 前立腺がん細胞において細胞増殖シグナルを伝達する膜タンパク質であるPCDHllYは抗体療法の標的として利用できる可能性があるため.細胞外ドメイン特異的scFv抗体の作成を試みた。幾つかの細胞外ドメインに特異的なscFv抗体の単離を行った。
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