■本邦における原発性腹膜癌の臨床病理学的多施設共同研究 前年度に引き続き、さらに症例数を増やした上で、国内の8施設における腹膜癌患者の臨床病理学的特性を後方視的に検討した、GOGの診断基準の基づき診断された腹膜癌症例115例を対象とし、各施設の研究協力者が診療記録より各臨床病理学的因子を調査し、集計したデータを統計学的に解析した。その結果、(1)主たる腫瘍占拠部位は大網、腹膜、腸間膜、横隔膜などの上腹部臓器であること、(2)高頻度に後腹膜リンパ節転移を認めること、(3)初回手術時の手術完遂率(optimal率)は、術前化学療法(NAC)群が初回腫瘍減量術(PDS)群より高い傾向を示すこと、(4)化学療法の効果は、NACの奏効率が92%、術後一次化療の無増悪率が86.8%であり、いずれも有用であること、(5)累積生存率はPDS群が26.2%、NAC群が48.3%で、後者が予後良好の傾向であること、(6)腫瘍減量手術の成功が予後を改善する傾向にあり、その反面適切な腫瘍減量を行えなかった場合は、極めて予後不良であること、などの特性が改めて確認された。 ■腹膜癌組織における遺伝子発現プロファイルの網羅的解析 腹膜癌組織15例の凍結組織を用いて、RNAマイクロアレイを用いた網羅的解析により、腹膜癌組織と正常腹膜組織における発現プロファイルの比較を行った。その結果、共通してup regulateしている遺伝子として、cytoplasmic ribosomal proteinであるRPL9、RPL10、RPL12、RPL19、RPL27A、RPL31、RPS3、RPS4X、RPS15A、RPS18およびchemokineであるCCL5が、一方down regulateしている遺伝子として、cytokine/chemokineであるIL-6、CSF1、CSF3、KITLG、CCL2、CXCL1、CXCL2、CXCL3、INEA17が、それぞれ有意な遺伝子として抽出され、これらはいずれもrealtime RT-PCRによってvalidationを得た。これらの結果より、CCL5をはじめとするcytokine/chemokineファミリーの各分子が、腹膜癌の病因・病態に関与していることが示唆された。
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