外有毛細胞(OHC)膜内のモーター蛋白prestinには、機能を発現しているものと機能非発現のものとが共在している可能性が予備実験から示唆された。機能非発現のものを活性化させprestin至適発現密度を回復させることができれば、障害された運動能の再生が可能となる。 本研究では、prestinの翻訳後修飾機構と細胞内輸送機構を、電気生理学的・分子生物学的・免疫組織学的手法を駆使して解明することを目的としている。今年度はG蛋白質による細胞内シグナル伝達機構に着目し、細胞内にG蛋白質のアゴニストであるGTP-γ-S(Guanosine 5'-O-(3-thiotriphosphate)tetralithium salt)を投与によるOHC運動能への影響を、electromotility、electromotilityを反映する電位依存性の膜容量(NLC)変化および細胞長の変化として検討した。 方法 1.Corti器を摘出し酵素処理後、外有毛細胞を単離した。 2.細胞外液、細胞内液ともionic blocking solutionをもちい、いずれもpH7.2に調整した。浸透圧は内液外液ともgulcoseで300mOsmに調整して使用した。 3.細胞長の変化及び電気的運動能の解析には映像解析ソフトウェアーDIASを用いた。パッチクランプはwhole-cell patch clamp modeで解析した。 結果 1.G蛋白質を持続的に活性化させるGTP-γ-Sを細胞内液に溶解し、100μMとしてパッチピペットのガラス電極を通して外有毛細胞内に投与し5分間作用させた。electromotility、電位依存性の膜容量(NLC)および細胞長に有意な変化は認めなかった。 2.G蛋白質のアンタゴニストであるGDP-b-Sを細胞内投与した。electromotility、電位依存性の膜容量(NLC)および細胞長に有意な変化は認めなかった。 3.細胞内をGTP-γ-Sで還流したOHCに細胞外からコレステロール除去薬であるMbCDを投与した。Capacitanceが最大となる電位Vpkcmはコントロール群がMbCD投与から3分後に25.63±13.9mV、10分後に74.95±13.37mV脱分極側に変化したのに対し、GTP-γ-Sを投与した群では3分後に-8.814±12.78mV、10分後に17.2±20.10mVとMbCDによる変化が抑制された。MbCD投与10分後の細胞長の変化率は、コントロール群では投与前と比較して83.4±4.27%まで細胞長が短縮したのに対し、GTP-γ-Sを投与した群では93.5±7.37%と短縮が抑制された。
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