気管の悪性腫瘍、炎症や瘢痕による狭窄例では病変切除後の気管再建が必要である。1995年以降、研究代表者らは体内で組織再生を誘導する手法で、ポリプロピレンメッシュにコラーゲンスポンジを付加した人工材料を開発し、これをスキャフォールドとして輪状軟骨、気管の再生を実現した。この方法では、気管の上皮は再生できるが、気管軟骨そのものは再生されていない。本研究の目的は、軟骨を再生するcell sourceとして、多分化能を有するマウスiPS細胞を培養し、軟骨に分化誘導する技術を確立してスキャフォールドに導入・移植し、世界に先駆けた気管軟骨再生の基盤技術を開発することにある。iPS細胞は自己組織から作製が可能で、倫理的問題と拒絶反応を軽減できる点で大きな意義がある。 平成21年度は、iPS細胞の培養技術を確立した。フィーダー細胞としてSNL細胞(SNL 76/7)を使用し、ピューロマイシン耐性遺伝子を導入(連携研究者:和田郁夫)後、ゲラチン処理したディッシュに播種し培養した。継代培養を行い、SNL細胞にマイトマイシンCを作用させ、増殖を止めた後回収した。ピューロマイシンを添加したiPS細胞用培地にて、SNL細胞にiPS細胞を播種して継代培養を行った。iPS細胞およびSNL細胞を酵素処理にてディッシュより剥離し、iPS細胞を選択的に回収した。得られたiPS細胞のコロニーについて、複数回の継代培養を行い、アルカリフォスファターゼ染色を行って未分化能を維持していることを確認した。 iPS細胞の軟骨への分化誘導を増殖因子を用いて試みたところ、軟骨様組織が得られた。iPS細胞をヌードラットの腹壁皮下と頸部気管周囲に移植したところ、奇形種を形成しそのなかに軟骨様組織を認めた。 I型コラーゲン溶液を凍結乾燥させてスポンジ状の材料にし、移植に適した形状のスキャフォールドを作製した。
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