気管は管状の枠組みを軟骨が支持しており、悪性腫瘍浸潤例、炎症や瘢痕による狭窄例では病変切除後の気管再建が必要となる。研究代表者は、1995年以降ポリプロピレンメッシュにコラーゲンスポンジを付加した人工材料を開発し、これを足場(スキャフォールド)として輪状軟骨、気管の再生を実現した。この方法では、気管の上皮は再生できるが、気管軟骨そのものは再生されていない。本研究の目的は、軟骨を再生するcell sourceとして、多分化能を有するマウスiPS細胞を培養し、軟骨に分化誘導する技術を確立することにある。さらに、軟骨細胞をスキャフォールドに導入し、これを気管再建材料として動物モデルに移植し、移植部位の組織学的に評価を行った。 1.奇形腫形成を利用した分化誘導 純化したiPS細胞をヌードラットの皮下に細胞移植を行う。移植部位に奇形腫からなる腫瘤が形成される。被膜外で腫瘤を摘出し、腫瘤に割面をいれ組織学的に評価したところ、軟骨様組織が認められた。 2.軟骨細胞を導入した気管再建用移植片の作製、移植と評価 SD系ラットの皮膚を採取し、上皮下層の再生目的に組織片培養により真皮由来の線維芽細胞を得た。 コラーゲンスポンジからなる板状のスキャフォールドを作製し、iPS細胞由来の軟骨細胞を浸透させ培養した。ips細胞由来の軟骨細胞の割合を確認し、移植片を作製した。 ヌードラットの腹部および頚部気管周辺に、先に作製した移植片を移植した。さらに気管欠損モデルを作製し、その欠損部に移植片を縫合して固定した。一定期間経過した後移植片を含む組織を摘出し標本を作製し、HE染色や免疫染色で組織学的に評価をした。その結果、一部ではあるが、移植したスキャフォールド内に、軟骨様組織の再生が認められた。 本研究により、世界に先駆けた、iPS細胞による気管軟骨再生の第一歩となる技術が得られた。
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