眼表面は、常在細菌と接する粘膜組織である。腸管をはじめとする粘膜組織では、常在細菌の存在にもかかわらず、健常状態では炎症を生じない。このことは、脾臓やリンパ節の単球やリンパ球が、細菌の菌体成分に反応して炎症を惹起するのとは異なっている。このように、粘膜固有の免疫機構が粘膜の恒常性維持に重要であることがわかってきている。例えば、腸管粘膜が常在細菌に対して炎症反応を生じるとクローン病のような炎症性腸疾患が発症する。同様にヒト眼表面炎症にも常在細菌に対して炎症を生じる病態が存在する。Stevens-Johnson症候群(SJS)患者にみられる眼表面炎症である。 申請者は、NF-κB regulatorの一つであるIκBζの欠損マウスが、眼表面炎症ならびに皮膚炎を生じることを報告した。IκBζは、IκBαと同じIκBファミリーに属する。また、2009年NatureにこのIκBζがT細胞において炎症を促進していることが示され、このIκBζは、炎症性疾患の標的因子となりうると報告された。本研究では、IκBζの欠損マウスが、皮膚炎や単なる眼表面炎症だけではなく、重篤な瘢痕性角結膜上皮症に特有に認められるゴブレット細胞の消失を伴った眼表面炎症を生じ、さらに、口唇口腔の炎症細胞浸潤、爪囲への炎症細胞浸潤を認めることを明らかにした。この所見は、重症薬疹であるヒト疾患Stevens-Johnson症候群患者の急性期の眼所見ならびに全身所見に酷似している。これは、炎症性疾患に対してIκBζを標的とした場合、IκBζを介した粘膜固有の免疫機構の破綻により重症薬疹であるStevens-Johnson症候群を生じる可能性を示している。
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