研究課題
我々は数値流体解析(CFD:computational fluid dynamics)の手法を用い、Norwood手術での血流動体を解析し、最適な術式を検討した。Norwood手術は今日最も重症な先天性心疾患である左心低形成症候群に対して生後早期に行う手術であり、今日最も難易度が高い手術の一つとされる。Norwood手術では大動脈を再建するが、これまでに様々な再建術式が報告されている。また再建後大動脈の曲や吻合部口径など形状の違いが心負荷、遠隔期予後に影響を与えるとされるが、その詳細は不明であった。まず、我々は小児の動脈内での拍動流を解析する手法を確立した。NorwOod術後患者の3D造影CTデータ(DICOM data)より患者に特異的な形状を作成し、心臓超音波検査で計測された血流データを境界条件として用い、3次元非定常Navier-Stokes方程式を解くことで解析を行った。解析結果を患者の心臓カテーテルデータで得られた血圧データを用いてvalidationを行った。末梢での反射波を想定することでより精度の高い生理学的な拍動流が実現された。この手法を用い、術式の異なる10症例の術後データを用い、CFD解析を行った。解析結果からエネルギー損失と血管壁にかかるshear stressを評価した。エネルギー損失は心拍出仕事量の約3~13%を占めることがわかった。遠位弓部に狭窄を伴う症例や、再建後の大動脈弓の角度が急峻になる症例では大動脈弓でのshear stressが高く、大きなエネルギーを損失した。パッチを用いる、下行大動脈に縦切開を置くなどの工夫をし、なだらかで狭窄のない大動脈弓が再建された症例ではエネルギー損失が低くなり、心負荷を軽減する可能性が示唆された。この解析システムが遠隔期予後を念頭に置いた術式の評価や術式の選択の上で非常に有用である可能性が示唆された。
すべて 2010
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件)
Annals of Biomedical Engineering
巻: Vol.38, No.7 ページ: 2302-2313