研究概要 |
本研究は、核マトリクス結合因子DRIL1の発現を一過性にコントロールすることにより、最終分化細胞におけるエピジェネティックな増殖抑制制御を解除し、増殖能の高い前駆細胞に転換することを目的としている。 本研究の目的を達成するためには、DRIL1と類似したDRIL2の発現も抑制する必要があることを昨年度報告した。そこで今年度は、もう一つの類似した遺伝子であるDRIL3も追加し、DRIL1/2/3に特異的なsiRNAによる発現抑制あるいはアデノウイルスを用いた過剰発現をおこない、DRIL1/2/3の機能を詳細に解析した。その結果、予想外なことにDRIL3の発現を抑制することが最も効果的であることが分かった。さらに最終分化細胞の前駆細胞への転換には、細胞増殖や細胞の生存を制御している癌抑制遺伝子p53およびRBの機能制御が重要である。そこでp53およびRBがん抑制経路におけるDRIL1/2/3の機能解析をおこなった。その結果、(1)DRIL1はp53による細胞周期停止に関与するp21/WAF1の転写活性化に重要な役割を担っていること(Lestari、et al.,2012)、(2)DRIL2とDRIL3はアポトーシス誘導に関与するp53標的遺伝子の転写活性化に重要であること、(投稿準備中)。(3)RBが抑制するE2Fの標的遺伝子の転写活性化にDRIL1およびDRIL2が重要であることが明らかになった(投稿中)。最後に、DRIL2の発現抑制は骨分化を阻害すること、DRIL3の発現抑制は間葉系幹細胞の増殖を促進することが示唆された。今後さらに解析を続けることにより、最終分化細胞の前駆細胞への転換法、あるいは未分化間葉系幹細胞の長期間培養法の確立など再生医療に有用な技術開発に寄与する可能性がある。
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