九州大学病院小児科およびその共同研究施設を受診し、川崎病の診断を受けた乳乳幼児の患者群40名と健常者のコントロール群21名およびDiseaseコントロール群4名の計65名について口腔内の診査を行い、口腔粘膜状態を調べた後にシードスワブ1号で口腔細菌を含む咽頭拭い液および舌苔を採取した。採取した咽頭拭い液および舌苔から細菌のDNAを抽出してテンプレートとし、16S rRNA遺伝子を標的にして6-FAMおよびHEX蛍光標識ユニバーサルプライマーを用いてPCRで増幅した。増幅した遺伝子断片はHaeIIIで切断した後、キャピラリー電気泳動によってT-RFLPパターンを得た。得られたT-RFLPパターンについては、ソフトフェアー開発業者と共同開発した計算プログラムを用いて、各サンプルに存在する口腔細菌種の種類とその割合を計算した。 計算プログラムから算出された各サンプルに存在する細菌種の構成比を基に、患者とコントロール群の全サンプルの細菌叢パターンのクラスター分析を行った。パターン解析には階層クラスター分析であるWard法を採用した。この結果、川崎病の患者と健常者のT-RFLPパターンには偏りがあり、健常者が多く集まるクラスターと川崎病患者が多く集まるクラスターが存在した。しかし、その年齢構成を調べると、患者が多く集まったクラスターには1.5歳未満の者がほとんどを占めており、患者の多いクラスターには1.5歳以上の者が多くを占めていた。このことから、川崎病患者に偏っていた細菌叢の構成には年齢による口腔環境の変化が影響していることが考えられる。その一方で、1.5歳以上の者が多いクラスターでは、健常者が多いものの、細菌叢の偏りによって、川崎病の多いサブクラスターに分類することができたことから、口腔細菌叢の構成の違いと川崎病の発症に関連性があることが示唆された。今後は、被験者数を増やすことで今回得られた傾向について統計学的な有意差を明らかにしていく必要性が認められた。
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