本研究の目的は、遺伝性乳がん(HBOC)および遺伝子検査に関する的確な知識、臨床管理、意思決定支援、心理的・家族的課題ならびに倫理的配慮に関する統合的ケアアプローチによる「遺伝性乳がんの予防・早期発見、管理をめざす統合的ケアプラットフォーム」を創成し、その有用性、実用性を検証することにある。23年度の成果は次の通りであった。I.統合的ケアの有用性、実用性の検討:A.「統合的ケアプラットフォーム」の有用性・実用性検討に先駆けて、専門家により統合的ケアプラットフォームに必要とされる要件の検討を行った。日本乳癌学会の認定施設である2つの一般病院で乳がん診療に携わる多職種(医師、看護師および遺伝カウンセラーと遺伝専門医を含む)6名を対象にフォーカス・グループインタビューを実施した。その結果、統合的ケアプラットフォームの要件は次のように構造化できた。1.【配慮のある(偏見や差別をしない)関わり】HBOCの重大性を認識し、乳がん患者がHBOCへ偏見、検査への抵抗感を抱くことのないよう、恐怖感を和らげるための教育や、乳がん患者へ差別感を与えないような広報の工夫、啓発、配慮。2.【多職種間の遺伝情報の共有】遺伝情報を第二義的に扱うのではなく、多職種メンバー間で遺伝情報を埋没させず、好機を逸することない、責任の明確化と情報共有。3.【重大性の認識と実践能力の備え】多忙な臨床状況下でHBOCの管理を、機を逃さずに行動する(できる)ための認識と実践能力。4.【初診時から患者と共に行うHBOCのリスク探索と情報提供】遺伝診療を乳がんの診療から切り離さずに、初診の問診や診療時から患者と関わる医師や看護師が患者と共に家系内のHBOCのリスクを探し、機会を逃さない情報提供と管理。B.有用性、実用性検討のために、臨床環境(人員配置等)および電子カルテシステムの一部変更を行った。
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