乳腺炎の発症は、母乳育児を困難にする。発症危険因子として経験的に食事が挙げられているが、科学的根拠は全く解明されていない。そこで本課題では、乳腺炎発症と食事成分との関係を世界で初めて実験的に解明することを目的とした。 平成21年度は、食品成分の乳腺炎に与える影響の評価を行った。先ず、授乳を行っている母マウスから仔マウスを強制離乳させ、母マウスにうっ滞を誘導する動物実験系を構築した。次いで、特定の糖質を摂食させておくと有意に乳腺組織内に好中球が遊走し炎症が重篤化することを見いだした。このことは、乳腺炎発症と食事成分との関係を実験的に初めて確認したものであり意義深い。また、当該の糖質は授乳婦にとっての禁忌食品に多く含まれるものであった事から、従来からの言い伝えが正しい事も併せて確認できた。今後、授乳婦に対するガイドライン策定の一助になると期待される。 一方で、煩雑な組織染色を伴わない方法で食事成分評価系を構築するために、マウスの乳腺組織からmRNAを抽出し、乳腺炎発症マーカーの探索を試みた。DNAマイクロアレイを用いた遺伝子発現解析から、炎症、イオントランスポート、筋収縮等に関連する遺伝子に、その可能性が考えられた。次いで、リアルタイムPCRにて一部の遺伝子発現の確認を行ったところ、炎症に関連する複数の遺伝子発現が、当該の糖質を摂食した場合に上昇する事が確認できた。今後、当該遺伝子と乳腺炎との関連を詳細に解析し、マーカーとなり得るかどうか検討する。 平成22年度は、特定の食品成分を摂食した場合の濃度依存性を確認し、現実的な食事組成における炎症の程度を確認したい。
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