乳腺炎の発症は、母乳育児を困難にする。発症危険因子として経験的に食事が挙げられているが、科学的根拠は全く解明されていない。そこで本課題では、乳腺炎発症と食事成分との関係を世界で初めて実験的に解明することを目的とした。 前年度、スクロースを過剰に摂取したマウスは、その乳腺組織内に好中球が遊走し炎症が重篤化することを見いだしていた。しかし、本実験は極端な食餌組成によるモデル実験であったため現実的な食事組成で同様の炎症が誘発されるかどうか、不明であった。平成22年度は、この点を主に検証した。米国人出産適齢期の女性が平均的に摂取するスクロース量(エネルギー摂取量の約20%)は勿論、WHOが推奨するスクロースの摂取量(エネルギー摂取量の約10%)においても乳腺組織に炎症が発症することを見いだした。この炎症は、スクロース濃度依存的に高まることも確認できた。上記の結果は、「スクロースの摂食」条件以外に「乳のうっ滞」条件が加えられた結果であったので、後者の条件無しに、すなわち「スクロースの摂食」のみで乳腺組織の炎症の度合いを検討した。その結果、弱い炎症が誘導されることが明らかとなった。以上の結果は授乳婦の栄養摂取に関するガイドラインに影響を及ぼすものと思われ意義深い。 平成23年度は、乳腺組織中の炎症、イオントランスポート、筋収縮等に関連する遺伝子が乳腺炎マーカーとなり得るかどうか検討する。また、肝臓組織に対する炎症と乳腺組織に対する炎症の関連を解析する。
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