本研究では、いままで未開拓な領域であった介護施設における疼痛有症率の実態とそれへの対策を明らかにすることで、疼痛管理の向上を促進し高齢者の生活の質を向上させることを狙いとしている。そこで、介護老人保健施設に入所中の高齢者を対象とし、セルフレポートスケール又は疼痛の訴えの困難な認知症高齢者に対しは標準化された疼痛観察尺度を用いて、疼痛有症率を把握すること、疼痛に関連する要因を高齢者の特性と環境及び提供されるケアの双方から探索することを目的としている。最終年度である本年度は、(1)疼痛有症率の実態調査、及び(2)介護老人保健施設の看護・介護管理者による施設の疼痛有症率への認識、疼痛管理の実態に関する調査のまとめを行った。 (1)施設長により研究参加への同意の得られた7つの介護老人保健施設を対象とした。対象者は、そこに入所する高齢者(537人)で本人または家族・後見人により研究への参加同意の得られた者169名とした。対象者の年齢等の属性、日常生活動作、認知機能、日本語版アビー痛みスケール(APS-J)、疼痛有無と強度に関するセルフレポートを調査した。研究の結果、動作時疼痛の訴えのあった者及び疼痛があると判断された者の割合(有症率)は46.2%であった。このことから介護老人保健施設におけるリハビリテーション促進や生活の質の向上にむけ、入所者への疼痛管理の必要性が示唆された。 (2)全国の介護老人保健施設の看護管理者に、そこに入所する高齢者の疼痛有症率と疼痛管理の実態についての質問紙調査を行った。その結果、看護管理者の見積もりによる疼痛有症率は平均22.3%であった。対象となった看護管理者(n=439)の所属する入所フロアにおいて、疼痛ケアマニュアルや標準化された疼痛アセスメントスケールの活用や、入所時・定期的な疼痛アセスメントを行っている施設はごく少数であった。本研究の結果、看護管理者の見積もる疼痛有症率は、先行研究に比べて低いことが明らかとなった。また、疼痛への対策の実施は、ごく少数のフロアにとどまったことから、今後、疼痛管理の向上が求められる。
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