視機能を評価する視力測定は、高齢者以外の定期検診や人間ドックにおいて必ず実施される一般的なものであるが、高齢者施設では視力測定は行われていない。そこで、本研究では、介護老人保健施設居住者の視力の実状と視力改善可能度について明らかにすることを目的とした。施設居住者の視力の実状をより明確にするため、視力は一般的な裸眼視力、矯正視力に加えて、生活視力も測定した。生活視力というのは、常時眼鏡を装着している者は自身の眼鏡使用時の視力、常時裸眼の者は裸眼視力を指しており、実際の生活における見え方を反映している。文献レビューの結果、わが国では生活視力に着目した研究は見当たらなかった。本研究では、この生活視力の向上に着目して調査分析を実施し、高齢者施設でのQOL向上が図れないかと考えた。その結果、視力改善可能度(「矯正視力-生活視力」)には、施設ごとの差が最も大きく関与していたことが分かった。B施設より日常の生活の見え方が良い状態にあると考えられるA施設においては、日常的に眼鏡を使用している者が多く、さらに比較的適した眼鏡を使用している者が多いと考えられた。認知症のある高齢者が多く生活する高齢者施設では、適した眼鏡の使用などは施設のケアの質に関わる課題であり、施設の取り組みによる差がある可能性が考えられる。 本研究のように、実際に居住者個々の視機能、例えば視力を把握することができれば、視機能の低下に合わせた個別性のあるケアや支援が充実し、QOLの向上につながると考える。また「なんとなく視力が低下してきた」と曖昧であったものが、定量化でき、眼疾患の早期発見や予防、改善へ向けての対応がすばやく取れるようになると考える。
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