加齢変化の老視は、近くが見えることに影響があるため、施設居住者の日常生活上での遠見視力と近見視力とQOLの関連を明らかにすることを目的とした.具体的には介護老人保健施設居住者の視力測定と視機能に関連したQOL(The 25-item National Eye Institute Visual Function Questionnaire;VFQ25)、ADL(BI)、認知能力(MMSE)、抑うつ状態(GDS)、基礎疾患、転倒の有無、眼科受診歴等の調査とデータ収集を実施した.視力測定においては左右の片眼視力と両眼視力、裸眼視力と矯正視力、遠見視力と近見視力、さらに本人が眼鏡を所持している場合は眼鏡使用時のそれぞれの視力を測定した。その結果、日常生活上の遠見視力と近見視力の両方低い者は、「目の痛みや不快感」があると感じており、「近見視力による行動」「遠見視力による行動」が低くそれぞれの行動について難しいと感じていた。また、遠見視力のみ低い者は「一般的なものの見え方」「見え方による自立」が低く、1人では外出できず、部屋にいることが多く、サポートを必要すると感じていた。一方、近見視力のみ低い者は「見え方による役割制限」があり、ものが見えにくいために普段の活動が長く続けられない、できることが限られる、物事を思い通りにやり遂げられない、誰かのサポートを得なければならないと感じており、さらに「見え方による社会生活」が低く、相手の反応や他人と過ごすことに関して難しいと感じていた。活動範囲や内容が限られる施設入所者にとって普段の活動は身近な事柄が多いと考えられるが、そのことが近見視力の影響を受けている可能性があった。また、今回の調査では、遠見視力と近見視力ともにBI、MMSE、GDSとの関連は見られなかったが、活動が長く続けられない、できることが限られる、思い通りにできない、相手の反応や他人と過ごすことの困難感は、気付かないうちに精神的な制限も受けている可能性がある。施設での生活の質の向上のためには、遠見視力だけではなく近見視力も重要であると考える。
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