研究概要 |
有害化学物質が引き起こす健康影響の中でも発達神経毒性は、母体が影響を受けない低用量曝露によって次世代に影響が顕れることが報告されてきた重要な課題である。本研究では、定量性・再現性の極めて高い独自の行動試験を出発点として、新たな顕微鏡解析により行動-組織-分子レベルのイベントのリンクさせることで(1)個体レベルの影響に直結した「影響の質と程度を示す」分子マーカーを見出し、(2)発達時系列をおって化学物質暴露と「こころ」の問題の因果関係を明らかにし「ネズミの行動変化がヒトの場合、どのような意味を持つのか」を科学的に説明することを目的とする。本年度は、(1)ラットにおけるスキーマ依存性学習について検討を行い、c-fos,zif286,Arcなど最初期遺伝子・蛋白の発現を組織化学的に調べ、それが前頭前野依存性学習であることを証明し論文報告した。ダイオキシン曝露により同学習機能に障害があることを明らかにし、LMD法を用いた遺伝子発現解析を開始した。(2)マウスにおいて、ダイオキシン曝露の影響は、大脳皮質-皮質下機能アンバランスにあり、これにより社会性行動異常と高次認知機能に異常を示すことを見出し論文を投稿した。(3)皮質-皮質下機能アンバランスを引き起こすダイオキシン曝露量は、既報LOAELよりもはるかに低い曝露量で認められ、化学物質影響科学として重要な課題である。そこで同曝露条件にて、前頭葉、扁桃体、海馬を中心として、LMD法等による顕微鏡解析による分子標的の同定を進めている。これまでに見出した分子のいくつかについては、ヒト遺伝子多型と行動表現型との相関解析も開始し、有意な結果を得ている。
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