研究課題
有害化学物質が引き起こす健康影響の中でも発達神経毒性は、母体が影響を受けない低用量曝露によって次世代に影響が顕れることが報告されてきた重要な課題である。本研究では、定量性・再現性の極めて高い独自の行動試験を出発点として、新たな顕微鏡解析により行動―組織一―分子レベルのイベントのリンクさせることで、「ネズミの行動変化がヒトの場合、どのような意味を持つのか」を科学的に説明し、その発達神経毒性の分子標的の同定を目指した。そして昨年度までに、本研究のゴールとして提示すべき新たな毒性概念として、「皮質―皮質下機能アンバランス」を設定することができた。最終年度は、それらを手掛かりとして標的分子の探索検証作業を行った。まず、ニューロン初代培養細胞系の解析から、ダイオキシン受容体ahr mRNAやその関連遺伝子は、ダイオキシンだけでなく、作用メカニズムが全く異なるはずのメチル水銀でも発現変動している知見を得た。ダイオキシン曝露によるそれらの発現変動部位から、ahrやその関連遺伝子は、社会行動制御そのものに関わる可能性が考えられた。また、マイクロアレイ・データのパスウェイ解析の結果、海馬において、グルココルチコイド代謝系遺伝子の変動が著しいという知見を得た。そこで曝露動物のコルチコステロン系を精査したところ、ダイオキシン曝露マウスではコルチコステロンの恒常的血液中濃度が低下していること、海馬亜領域におけるグルココルチコイド受容体関連遺伝子の発現変動を定量的に確認した。さらに成熟マウスではストレス負荷行動試験における反応性に異常があることも確認した。以上のように、発達神経毒性の分子標的を、げっ歯類のレベルで複数同定した。またその一部については、ヒトにおいての検証を実現した。
2: おおむね順調に進展している
行動変化と化学物質暴露を結びつける分子標的を複数同定した。またその一部については、ヒトにおいての検証まで行うことができた。
本研究課題は年度で終了である。今後は、学術論文等において成果を公表したい。また、本研究成果をもとに、ヒト研究とマウス実験の融合による更なる展開を進めたい。
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