(1)母性因子によってどのように胚性の調節因子の発現が制御され16細胞期で特定のパターンを作り出すのか、を体系的に調べている。以前の研究成果と同様に基本的には動物極側はGATA、植物極側はbeta-catenin/TCF、後方はmacho-1によって活性化されるが、一方で、我々のデータはそれぞれの遺伝子が活性化されない領域で積極的にその発現を抑制する機構が存在することを示していた。その抑制機構の詳細について調べ、GATAとTCFが相互作用している可能性が高い証拠を得た。 (2)昨年度までにホヤの母性因子のうち、少なくとも2000程度が個体によって異なる発現パターンを示すことがわかったため、その個体差を排除して初期の胚性の遺伝子発現を正確に捉える方法を情報学的・実験的に様々に検討した。母性因子による胚性の遺伝子発現プログラムの開始時点では、理論的に取りうる255の遺伝子発現パターンのうちの10パターンのみが認められることがわかった。 (3)32細胞期の遺伝子発現パターンを体系的に説明するためのモデル構築の中から、BMP/TGFシグナル系のモデリングが不適当であることがわかり実験を進めた。このBMP/TGFシグナリングは、ホヤの初期胚ではモデルの前提としていた勾配を持ったシグナル伝達をおこなっていなかったが、FGFシグナリングの標的遺伝子のシス調節領域に直接働きかけ、その標的遺伝子が活性化・不活性化の閾値反応をおこなうために必要であることを見出した。 (4)これまでの研究で構築した遺伝子ネットワークが論理的に胚発生における遺伝子発現を説明できるかどうかを検証している過程で、Admpの関わるBMPシグナリングの働き方に疑問が生じた。その原因を調べた結果、AdmpにはPinheadと呼ばれる新奇の特異的アンタゴニストが存在することを明らかにした。Pinheadはタンパク質のレベルでAdmp機能を抑制するだけではなく、Pinheadの転写そのものが隣接してコードされるAdmp遺伝子の転写を抑制するという新奇の機構を明らかにした。
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