研究概要 |
(1)個体差による母性因子の発現量の違いという予想外の結果を昨年度までに得たので、その結果を実験的にさらに確認した。また、初期胚において胚性のゲノムから発現する遺伝子の網羅的な解析によって、遺伝子ネットワークの開始の時点で、10種類の異なる遺伝子発現パターンが作られることを明らかにした。 (2)母性因子によってどのように胚性の調節因子の発現が制御され16細胞期で特定のパターンを作り出すのか、を体系的に調べた。以前の研究成果は、動物極側はGATA、植物極側はβ-catenin/TCF、後方はmacho-1によって決定されることを示している。一方で、なぜ、植物極側で動物極側の遺伝子が発現しないのか、などの問題は未解明であり, どのようにして遺伝子ネットワークが開始するかの全体像がわかっているわけではなかった。TCFは、β-cateninとの相互作用に加え、GATAとも協調して働くことで、動物極・植物極の違いをつくりだす新奇の相互作用を見出し、前出の10種類の初期胚の遺伝子発現パターンのほとんどを説明できるようになった。 (3)昨年度までに明らかにした32細胞期の神経誘導に関わる5つのシグナル経路の働きを説明する論理式を明らかにするための、理論的な手法を開発した。この手法では分子の濃度の違いは、実際の濃度を測定することなく、胚の三次元構造をもとにして予測しており、汎用性が高い。この解析によって、ホヤの神経誘導は分泌性のタンパク質ではなく、膜タンパク質による接触性のシグナルタンパク質が重要であることを見出し、実験によってその予測を実証した。 (4)昨年度までにAdmpとPinheadの遺伝子対に予期せぬ新奇の転写調節機構を見出したので、同様の機構が他の遺伝子対にも存在している可能性について、検討を加えた。ゲノムの解析と発現パターンの解析から、同様の調節機構を持つ可能性がある遺伝子対を同定した。
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