プロジェクト初年度にあたる2009年度は、(1)2004年1月から2006年末までの日次マーケティングデータのRawデータの入手、(2)家計調査および全国消費実態調査の個票データの入手、(3)マーケティング会社のセキュリティ基準を満たすVPNを用いたネットワーク分析環境の構築、(4)イギリスのマーケティングデータ分析グループとの研究交流、(5)マーケティングデータと家計調査の個票データとの比較を通じた、Homescanによる消費支出の特徴の整理、(6)大阪大学や北海道大学等の研究者を含めた研究体制構築、の六点を行った。特に、重要な結果は阿部(2010)「Homescanによる家計消費データの特徴」でまとめた(5)である。Homescanによる消費支出データは家計簿によるデータと比較し、イギリスにおける先行研究と同様に、25%から30%程度、家計簿ベースのデータと比較し水準は低いが、支出の年齢や就業状態等への依存パターンや変動係数は家計簿ベースのデータとほぼ同じであることが明らかになった。また、時系列情報を利用した分析では、(1)支出の季節性変動パターンは家計間で大きく異なること、および(2)月次支出データの変動は恒常所得モデルが想定しているよりも大きいが、年次支出データは非常に安定しており、恒常所得モデルと整合的な性質を有することが判明した。2009年の9月に開催した国際コンファレンスでは、イギリスと日本のHomescanデータの比較が議論され、日本家計の購入頻度がイギリスに比べ高いこと、その理由として日本では女性配偶者の正規雇用率が低く、無職率が非常に高いこと、スーパー等での特売頻度が高いこと等が指摘され、日英間の消費行動の相違点が明確となった。
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