平成21年度に引き続き、インテージ社提供によるHomescanデータに基づく分析を中心に研究を行った。Homescanデータを、標準的な家計消費データである総務省家計調査の個票データや慶應義塾パネルデータと比較し、その基本的性質を明らかにした分析は、阿部・新関(2010)にまとめられロンドン等でセミナーを行い、『経済研究』に掲載された。また、Homescanを用いた高頻度長期パネルデータ分析も取り入れた現時点での家計消費分析のフロンティアをカバーした本を執筆し、阿部(2011)として、岩波書店より出版された。研究体制では、大阪大学を中心とする分析チームが新たに結成され、主に家計内生産と購買行動の分析が行われている。平成21年度からの分析上の進展に関しては、家計間でインフレ率や物価水準がどの程度異なるか、それらが年齢や所得・購入頻度とどのような関係にあるかを中心に分析した。その結果、アメリカの先行研究と異なり、年齢や所得による物価変化率の家計間格差は日本ではそれほど大きくはないことがわかった。また、商品購入頻度と家計間価格水準格差の関係を調べたところ、購入頻度が高い家計ほど同一商品をより安い価格で購入しているという結果を得たが、その程度はアメリカのHomescanよりも遥かに小さいものであった。一方、英国のHomescanでは我々とほぼ同様の結果が得られている。各国により、家計の購買パターンやスーパーマーケットにおける特売戦略は大きく異なることが知られている。物価と年齢や所得の関係が各国で大きく異なる理由として、上記のような商慣行の違いがどの程度重要であるのか、諸外国の研究チームと共同で分析を進める。この成果の一部は、2011年度に計画されている国際コンファレンスで発表される予定である。
|