研究課題/領域番号 |
21673001
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
阿部 修人 一橋大学, 経済研究所, 教授 (30323893)
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研究期間 (年度) |
2009-05-11 – 2014-03-31
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キーワード | Homescan / 商品価格 / 物価 / 家計消費 / 購買行動 / 東日本大震災 |
研究概要 |
本プロジェクトの最終年度では今までの研究で課題として残っていた、(1)家計が直面する物価水準指標の作成、(2)家計消費と労働供給を同時に説明する構造モデルの構築とパネルデータを用いたカリブレーション、及び(3)東日本大震災直後の全国における物価動向の研究を主に行なった。(1)の成果としては、家計間物価指数の指標として、Geary-Khamis (GK)指標が有効であることを明らかにした。欧米の研究で用いられているバーシェタイプのAguiar and Hurst (AH)指標は、日本の家計データでは変動の大きさも、家計属性変数との相関も小さいが、国際間の所得比較でよく用いられるGK指標は、家計毎に標準的な物価指標を計算することで、ホームスキャンデータに不可欠な多くの欠損情報を補完することで、AH指標よりも多くの情報を含む。その結果、日本老年家計は週末の買い物が少なく、週末の特売を利用する機会が減り、若年家計に比べてより高い物価に直面していること等が判明した。(2)の成果としては、21世紀縦断調査を用い、若年層が正規雇用から非正規雇用、失業に陥るリスクをマルコフチェーンで近似した上で、予期せざる雇用形態の変化が若年層の生涯消費をどの程度低下させるかを検証した。パネルデータによる実証分析では、正規から非正規に変化すると、生涯消費は17%程度低下する。予備的貯蓄モデルに基づく動学モデルでは、ほぼこの結果を再現することが可能である。非正規雇用者は正規雇用者に比べ、1)低い賃金、2)高い失職確率、3)高い賃金変動、に直面しているが、構造モデルによる分析では、特に重要なのは賃金の差であった。最後の(3)の成果としては、特売の重要性が明らかとなった。具体的には、東日本大震災後、首都圏では深刻な物不足に陥ったが、公式統計では物価水準の上昇がほとんど観察されない。しかしながら、これは公式統計が特売の変化を反映しないことが一員であり、POSデータに基づく分析では、震災後顕著に特売頻度が低下し、実質的な価格が上昇したことが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
家計間物価指数として、国際貿易でよく用いられているGK指標が有用であることを見出したこと、震災後の価格動向がPOSデータと公式統計の違いが何に起因するかを明らかにし、定量的に特売の重要性を見出したこと、家計消費と労働供給に関する詳細な構造モデルの分析をパネルデータを用いて検証したこと、から、本研究課題の目的を十分に達成したと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では、ホームスキャンデータや他の家計消費・労働に関するミクロデータ、小売のPOSデータを用いた様々な実証分析を行った。インフレーションが現在、大きな政策課題になっている今日、物価水準の変化がどのように家計に影響を与えるかを解明することは急務となっている。特に、大きな物価変動が観察される時期に、どのようにその変動が異なる家計間に帰着するかは重要な課題である。本研究課題の遂行によりホームスキャンデータが学術上重要な情報を有することが多くの研究者間で知られており、一橋大学に設置される経済社会リスク研究機構において、詳細か物価動向の分析を継続していく予定である。
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