本研究計画は、格子ゲージ理論の大規模シミュレーションを使って量子色力学(QCD)の真空構造を数値的に明らかにしようとするものである。厳密なカイラル対称性をもつ格子フェルミオンを用いることで、ゲージ理論のトポロジーや量子異常といった、真空の構造を決める重要な性質を正しく保った非摂動計算が初めて可能になる。 平成21年度は、研究代表者らがこれまでに進めてきた、厳密なカイラル対称性を格子上で保つオーバーラップ・フェルミオンを使った精密なQCDシミュレーションのデータを利用して、カイラル対称性の自発的破れを特徴づけるカイラル凝縮、真空のトポロジーに敏感なフレーバー1重項の物理、さまざまな物理量に対するパイ中間子のループ効果の研究を主として行った。 カイラル対称性の自発的破れは、クォーク・反クォーク対の真空での凝縮によるものと理解できるが、格子ゲージ理論のシミュレーションによって、このクォーク・反クォーク対の寄与を陽に計算することができる。ここにさらに、カイラル有効理論にもとづいたクォーク質量や体積に関するスケーリングの評価も加えて、カイラル凝縮の値を精密に求めることに成功した。 パイ中間子のループ効果に関しては、その効果が非常に顕著に現れると予想されるパイ中間子の形状因子の計算を行い、2ループ効果まで取り入れたカイラル有効理論の式を使ってデータを解析することで、QCD計算の結果は確かにカイラル有効理論が示唆する結果を再現することを示すことができた。
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