研究課題
本研究計画は、格子ゲージ理論の大規模シミュレーションを使って量子色力学(QCD)の真空構造を数値的に明らかにしようとするものである。厳密なカイラル対称性をもつ格子フェルミオンを用いることで、ゲージ理論のトポロジーや量子異常といった、真空の構造を決める重要な性質を正しく保った非摂動計算が初めて可能になる。本研究では、厳密なカイラル対称性を格子上で保つオーバーラップ・フェルミオンを使った精密なQCDシミュレーションを実行し、カイラル対称性の自発的破れを特徴づけるカイラル凝縮、それをあたえる(トポロジカルな)擬似ゼロモードの寄与、真空のトポロジーに敏感なフレーバー1重項の物理、さまざまな物理量に対するパイ中間子のループ効果、量子異常からあらわれるパイ中間子の二光子崩壊など、QCDの非摂動的側面を定量的に明らかにすることを目的としている。平成24年度においては、量子異常を通じて起こる中性パイ中間子の二光子崩壊振幅を格子計算で扱う手法についてまとめ、最終結果をまとめた。量子異常はフェルミオンのカイラル対称性と密接に関連しており、格子計算でこの過程を再現することで、格子理論の正当性を確認できると同時に、従来の解析的手法では実現できない高精度計算の道を拓くことにつながる。有限温度でのトポロジー励起の寄与について解析を進め、論文執筆を進めた。近日中に発表できる見込みである。本研究の発展として、カイラル対称性を非常によい精度で保ちながら数値計算を格段に高速化する手法について研究を行い、中間結果を発表した。また、本研究計画全体のまとめとなる招待レビュー論文を発表した。
2: おおむね順調に進展している
年度当初に予定していたパイ中間子の二光子崩壊や有限温度相転移の研究について、想定していた成果が得られたため。
本研究計画で得られたQCD真空での低エネルギー固有モードのデータをより効率的に活用することを目指し、外部の研究者との連携を模索する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (1件)
Progress of Theoretical and Experimental Physics
ページ: 01A106
DOI:10.1093/ptep/pts006
Physical Review Letters
巻: 109 ページ: 182001
DOI:10.1103/PhysRevLett.109.182001