研究概要 |
本研究は室内空気環境の新たな汚染源として着目されている気中分散粒子系汚染物質の空気力学的・化学的・微生物学的特性を厳密にモデル化し,放散源を含む非定常不均一濃度分布の予測が可能な統合モデルを構築することで人体曝露経路を解明する.さらに,疫学モデルを統合することで総合的な健康リスク評価モデルを提案することを最終目的とする.この目標に対し本年度は以下の研究課題を遂行した. 1.工学予測モデルと公衆衛生学リスク評価モデルの統合作業 室内流れ場,温度場,気中分散粒子系汚染物質濃度場予測を中心としたCFDベースの数値解析モデルに,SIR型,SEIR型の数理疫学モデルを統合して解析する手法を整理した上で,呼吸・生理発熱する数値人体モデルを統合した総合的な感染伝播予測モデルを開発した.特に数百メートルスケールの大空間から人体モデルまでを0次補完モデル,1次補完モデルによってダウンスケーリングする数値解析手法も併せて開発した. 2.長期間解析を可能とするBES-CFD連成解析手法の確立と疫学モデルとの統合 数時間スケールまでの感染伝播予測を得意とする前述(1)の数値解析手法に加え,quasi-coupling手法を用いた熱・換気回路網シミュレーションとCFDの統合解析手法を開発した.CFDのカップリング回数を調整することで,一定精度を担保した上で,月から年の時間スケールでの解析が可能となることを確認した.その上で,SIR型駅がモデルを統合する手法を検討・整理した. 3.数値気道モデルの開発 数値人体モデルの鼻腔,口腔と境界面を共有する数値気道モデルを開発し,非定常呼吸サイクルを組み込んだ気道内流れ場,温度場,気中分散粒子系汚染物質濃度場に高精度解析手法を開発した.非定常呼吸サイクルを再現した状態での,気道モデル内の平均対流熱伝達率,平均物質伝達率を詳細に解析すると共に,気道内の不均一粒子沈着に関すケーススタディを継続して実施した. 4.アクリル製気道モデルを対象としたPIV計測 前述(3)の数値気道モデルによる気道内流れ場予測精度の検証用データを蓄積する目的で,同一のCTデータよりアクリル製気道モデルを制作し,PIV計測を実施するための準備を開始した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
工学・公衆衛生学の両アプローチともに,数理モデル開発と数値解析の実施に関しては当初の計画を上回る成果が得られており,順調に進捗している.特に,人体曝露経路の数値予測モデルに関しては,建築スケールから呼吸域スケールまでの濃度予測モデルに加え,特に口腔・鼻腔から気管支までの気道(呼吸器》モデルの開発において当初計画以上の成果が得られ始めており,今後,発展的に大きな成果が得られるものと期待している.
|