生殖は遺伝の根幹を成す生命現象であり、植物にとっては種子生産に直結する重要な過程であるが、特に生殖細胞の初期発生過程を制御する遺伝システムは、そのほとんどが未解明のままである。 今年度は、イネ生殖細胞の初期発生過程で特異的に機能するARGONOUTE(AGO)タンパク質MEL1の解析に着手した。一般的にAGOは、小分子RNAをガイド分子として、標的遺伝子発現の転写後抑制、あるいはDNAメチル化・ヘテロクロマチン化による遺伝子サイレンシングや転位因子の不活化、などに関与する。イネ幼穂の粗抽出液から、MEL1抗体によりMEL1を含むタンパク質-RNA複合体を抽出した。電気泳動により、粗抽出液には主に21ntと24ntの2種類の小分子RNAsがみられたが、MEL1免疫沈降画分では21ntのRNAsが濃縮されていた。21ntは一般的に、miRNAを介して標的遺伝子発現の転写後抑制に関わることが知られている。すなわちイネMEL1 AGOは、主にmiRNA経路で働き、生殖細胞発生に必要のない遺伝子のmRNAを分解して、正常な生殖細胞発生の維持に貢献している可能性が浮上した。現在、大量解読したMEL1結合小分子RNAsの配列から、標的遺伝子の絞り込みを行っている。 減数分裂進行に必須のイネタンパク質MEL2は、RNA認識モチーフ(RRM)およびュビキチン系タンパク質分解系でE3リガーゼとして機能するとされるRINGフィンガードメインをもつ。今年度は、MEL2の標的遺伝子を同定する目的で、MEL2を機能ドメイン毎に分解し、それぞれでペプチド標識との融合タンパク質を発現するようなプラスミドに加え、各機能ドメインに人為的に突然変異を入れたものを作成し、合計で10種類のコンストラクトを作成した。今後、RRMが結合する標的mRNAの特定と、RINGのE3リガーゼ活性試験を、試験管内および生体内で行う。
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