生殖は遺伝の根幹を成す生命現象であり、植物にとって種子生産に直結する重要な過程であるが、特に生殖細胞の初期発生過程を制御する遺伝システムは、ほとんどが未解明である。イネ生殖細胞の初期発生過程で特異的に機能するARGONOUTE蛋白質MEL1、そして減数分裂進行に必須のイネ蛋白質MEL2の機能解析を中心に、植物の生殖細胞初期発生過程を制御する機構の解明を目指す。以下に今年度の成果を示す: (1)MEL1蛋白質と結合する小分子RNAの同定と解析 MEL1と結合する小分子RNAの大量配列解読を行い、イネゲノム上へのマッピングを行った。興味深いことに、MEL1と結合する小分子RNAは、そのほとんどが機能未知の遺伝子間領域に由来することがわかった。MEL1と結合する小分子RNAと相同性をもつ遺伝子領域を、2塩基ミスマッチを許容する条件で探索すると、50個を越える遺伝子が該当した。 この中からMEL1支配下の遺伝子を絞り込む予定である。 (2)MEL1遺伝子の発現解析 MEL1は花の各器官の原基が形作られた直後に、始原生殖細胞の分化予定領域で発現を開始する。組織学的解析から、MEL1の発現開始がサイトカイニン活性化酵素LOGの発現に依存する可能性が示唆された。植物の始原生殖細胞の運命決定と植物ホルモンの関連が示されたのは初めてである。本成果は国際科学雑誌Developmental Biologyで発表した。 (3)MEL2蛋白質の機能解析 体細胞分裂から減数分裂への移行は、真核生物の配偶子形成に必須である。RNA結合モチーフ蛋白質MEL2が、植物の同過程に必須の働きをすることを世界で初めて明らかにした。本成果は国際科学雑誌PLoS Geneticsで発表した。MEL2と結合するRNAの同定を進めている。
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