研究課題/領域番号 |
21678001
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
野々村 賢一 国立遺伝学研究所, 実験圃場, 准教授 (10291890)
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キーワード | 植物 / 生殖 / 減数分裂 / RNA / 発生 / 遺伝子 / イネ |
研究概要 |
生殖は遺伝の根幹を成す生命現象であり、植物にとって種子生産に直結する重要な過程であるが、特に生殖細胞の初期発生過程を制御する遺伝システムは、ほとんどが未解明である。イネ生殖細胞の初期発生過程で特異的に機能するARGONOUTE蛋白質MEL1、そして減数分裂進行に必須のイネ蛋白質MEL2の機能解析を中心に、植物の生殖細胞初期発生過程を制御する機構の解明を目指す。以下に今年度の成果を示す:(1)MEL1蛋白質と結合する小分子RNAの同定と解析 昨年度、MEL1と結合する小分子RNA(MEL1sRNA)のほとんどが、遺伝子間領域に由来することを明らかにした。今年度は、さらに詳細にMEL1sRNAのイネゲノム上での分布パターンを解析した。MEL1sRNAは全ての染色体にマップされ、それぞれで不均一な分布、すなわちクラスターを形成する傾向が認められた。また各クラスター内で、MEL1sRNAはある規則性をもって配列していた。MEL1のターゲット遺伝子を同定するためにマイクロアレイ解析および定量的PCR解析を行った。mel1変異体と正常植物体との間で発現が変動し、かつMEL1sRNAに対応する配列を含むいくつかの遺伝子がみつかった。現在、更に慎重に解析を進めている。 (2)MEL2蛋白質の機能解析 昨年度、イネのRNA結合モチーフ(RRM)蛋白質であるMEL2が、体細胞分裂から減数分裂への移行に必須の働きをすることを世界で初めて明らかにした。MEL2のターゲット遺伝子を同定するため、GST-MEL2RRM融合タンパク質と、ランダムな配列をもつ50塩基長の人工合成RNAミックスとを混合し、融合タンパク質の精製と結合RNAの増幅を繰り返して、MEL2RRMと結合するRNAを濃縮することに成功した。濃縮されたRNAの多くは、約12塩基長のUリッチ配列を共通に持っていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MEL1の解析では、植物の生殖細胞発生過程において、これまで報告のない新たな小分子RNA経路の存在が証明され、論文を執筆中である。また、世界で初めて減数分裂の移行に必須の植物RNA結合タンパク質MEL2を発見して著名な国際科学雑誌上で発表した。現在、MEL2がターゲットとする遺伝子の同定も順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
イネMEL1とMEL2という2つのRNA結合タンパク質の研究は、それらが結合するRNA分子種の同定が当初の方針通り順調に進んでいる。これまでに得られた結果は、両研究が植物生殖細胞研究に全く新しい知見をもたらすことを示しており、この研究に関して方針の変更は全く必要ない。 研究開始当初は、クロマチン修飾に関与する突然変異体を用いた生殖細胞における染色体動態解析を予定していたが、諸般の事情により変異体の入手が困難になり、未だ着手できずにいる。しかし、上記のMEL1とMEL2の解析が順調に推移していること、また特にMEL1解析で明らかとなったMEL1sRNAクラスター領域が生殖細胞で重要な役割を果たすことから、同クラスター領域のクロマチン構造を解析するなど、染色体動態研究についてもMEL1とMEL2に焦点を絞って研究を進める方が、より大きな成果につながると確信するに至った。従って、クロマチン修飾に関与する突然変異体を用いた染色体動態解析は、今後の実施を見合わせようと考えている。
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