本研究の目標は、標的分子の環境調和性高い自在合成法の確立を基盤として、医薬分子の候補骨格を拡張し、最終的に人類の健康に貢献する医薬の創出を促進することである。本年度は、(1)トランスメタル化や脱プロトン化といったソフトメタル不斉触媒の求核剤活性化機能を最大限に発揮して、抗結核薬R207910の触媒的不斉合成ルートを確立することと、(2)不活性なC-H結合の触媒的活性化を経由する炭素-炭素結合形成法の開発、の2点を主たる研究の目標とした。本年度は(1)の目標を完全に達成し、また(2)の目標に対してはその端緒を得ることができた。 抗結核薬R207910の不斉3級炭素を、エノンのγ位プロトンを不斉触媒によりα位に転位させる方法を開発することで高エナンチオ選択的に構築した。再結晶により光学的に純品とした後に、独自に開発したフッ化銅触媒によるケトンのアリル化反応をジアステレオ選択的反応に応用することで、不斉4置換炭素を構築した。これら2種類の独自の触媒的反応を用いて、R207910の世界初の触媒的不斉合成を達成した。 アリール位の触媒的活性化を目指して検討を行い、含窒素複素環のアリール位の脱プロトンを介したエノンに対する直接的触媒的共役付加反応を開発することに成功した。触媒としては希土類トリフラートが優れていることが明らかとなった。 ベンジル位に不斉四置換炭素を有する2-オキシインドール類は、多くの生物活性分子に見られる汎用キラルビルディングブロックである。これらを一般性高くかつ短工程で与える不斉触媒反応の例は少ない。アリールトリフレートをPd触媒で活性化し、これを分子内に存在するケトンに求核攻撃させることで、一般性高くベンジル位に水酸基を有する2-オキシインドール類を高エナンチオ選択的に与える方法を見出した。本法は、安定な有機分子を出発原料として、元素ゴミを比較的少量に抑えて不斉四置換炭素を構築できる点で意義がある。
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