研究課題/領域番号 |
21679005
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
大沼 圭 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (10396872)
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研究期間 (年度) |
2009-05-11 – 2014-03-31
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キーワード | CD26 / DPPIV / Caveolin-1 / 共刺激 / 移植片対宿主病 |
研究概要 |
1.CD26・caveolin-1共刺激系を介した新たなメカニズムとして、Th17への分化とGVHD病態形成、抑制性サイトカインIL-10産生経経路を発見した。 2.臍帯血を用いた肺GVHDマウスモデルの開発により、慢性GVHDの致命的かつ難治性臓器合併症である肺GVHDの病態解明と治療法の開発が飛躍的に進むものと期待できる。 3.本研究の結果から、CD26を介して活性化されたヒトCD8陽性T細胞は、細胞傷害における主要なエフェクター分子であるGranzyme BとFasLの両分子の発現が顕著に亢進され、非常に強い細胞傷害活性を示すことが明らかになった。このことから、CD26共刺激による健常なCD8陽性T細胞の活性化は、ウイルス感染や腫瘍からの生体防御において非常に重要な役割を担っていると考えられる。一方、自己免疫疾患やGVHDなどのように何らかの要因で攻撃する矛先が正常な自己の細胞に向いてしまう場合では、CD26共刺激によって強い細胞傷害活性を獲得したCD8陽性T細胞は、重篤な組織破壊と炎症反応を引き起こす原因となることが示唆される。当研究室で作製に成功したヒト化抗CD26抗体は、CD26共刺激シグナルを阻害することで、CD8陽性T細胞の炎症性因子の発現低下と細胞傷害活性の抑制に作用することが予想される。本研究によって明らかになったヒトCD8陽性T細胞におけるCD26分子の役割、生理的意義についての新たな知見は、ウイルス感染や腫瘍に対するCD8陽性T細胞依存的な生体防御システムの理解や、CD8陽性T細胞が発症や回復に重要な役割を持つと考えられる自己免疫疾患やGVHDなどの免疫異常症の病態解明と過度の免疫抑制を回避した治療法の開発につながるものと期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目標は5項目で、[1]CD26とcaveolin-1の相互作用をトリガーとするT細胞の活性化機構の解明。[2]臍帯血T細胞のアロ抗原応答性におけるCD26とcaveolin-1の分子生物学的解析。[3]CD26とcaveolin-1の相互作用を標的とした分子特異的T細胞抑制療法の開発、特に、急性GVHD(aGVHD)の予防と治療に対する新規薬剤の開発。[4]移植免疫寛容誘導におけるCD26とcaveolin-1の分子生物学的解析。[5]同種造血幹細胞移植後のGVHD発症におけるCD26発現の検討と臨床病態の解明。 これらの研究目標のうち[1]~[4]は比較的順調に実験がすすみ、データの蓄積と発表を行なってきた。また、先の中間評価において研究目標[5]の臨床検体を用いた研究の遅れが指摘された。その理由は、CD26・caveolin-1共刺激系が新規のリンパ球活性化経路であるため、基礎的なデータが乏しく、臨床研究を提案するときに十分な理解が得られなかったためである。しかし、この1年間で、「GVHDの病態形成と治療標的として、臨床検体を用いた解析により、CD26・caveolin-1共刺激系のエビデンスとしてin vitro、in vivoのデータが蓄積できた。この結果は、臨慶應大学医学部病理学教室(既に、他の研究課題で共同研究を実施している教室)にとの共同研究によって、造血幹細胞移植後のGVHD検体での臨床研究を進める見ことが出来たためである。 本年度は、まとめの年でもあるので、上記の研究成果を欧米一流誌に投稿するため、論文作成を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、ヒト臍帯血を用いた異種GVHDマウスモデルの開発とその解析をまとめる。臍帯血移植後のGVHDの病態解明と新たな分子基盤による治療法の開発を目的として、ヒト臍帯血がマウス体内でエフェクター細胞として作用し、免疫的に臓器障害を発症するマウスモデルの構築を行なった。NOG(NOD.Cg-prkdcscidil2rgtm1Sug/Jic)マウスにヒト臍帯血単核球(1×107個)を腹腔内投与したところ、異種GVHD症状を発症することなく、血球細胞は安定キメラ状態となった。そこで、ヒト臍帯血投与24時間前に骨髄致死量(500cGy)の放射線照射を行なったところ、90%のマウスが移植後1週間以内に死亡した(病理解剖の結果、肺胞内に好中球が集簇し、急性肺炎と断定した)。次に、非致死量の放射線(200cGy)を照射した後、ヒト臍帯血単核球(1×107個)を腹腔内投与したところ、投与後2~4週目に脱毛、体重減少等の異種GVHD症状が出現した。症状を呈しているマウスを移植後6週~10週目で解剖したところ、非感染性免疫性肺像炎(肺血管と細気管支周囲のリンパ球浸潤と肺間質の線維化)が認められた。同時に、その他のGVHD標的臓器である肝臓、消化管、皮膚では極めて軽度のリンパ球浸潤のみであった。臨床で行われている同種臍帯血移植においては皮膚・肝・消化管のGVHD症状の発症は軽度でコントロール可能なものが多いが、慢性期の肺GVHDが比較的多く、治療成績の向上のためには、肺GVHDのコントロールが課題であるが、本マウスモデルを用いることにより、臍帯血移植後の肺GVHDの病態解明と治療法の開発に大きく寄与できる。すなわち、ヒト臍帯血におけるCD26刺激によるIL-17の活性化を標的とした肺GVHDの病態解明と治療法のイノベーションに繋げることが可能である。
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