研究概要 |
本研究は,触覚によって音楽のような心を揺り動かされる感覚体験を生み出す手法を体系化することを目標とし,情動を引き起こす触覚体験の単位要素の同定,情動を引き起こす触覚体験に必要な触覚ディスプレイの設計論構築,および情動を引き起こす触覚体験の低次-高次モデルの構築を行うものである. 第二年度であるH22年度は,触覚による情動増幅を二つに分類した.第一に触覚それ自体が情動を生成するもの,第二に情動に伴う(生理/運動)反応を逆に提示することによって情動を誘発するものである.第一の情動誘発については,音響コンテンツに合わせて耳に対して触覚提示を行うと,強い情動を生起しうることを見出した.この情動変化の質は耳への刺激によって決まるものではなく,文脈(コンテキスト)に依存して誘発される情動の種類自体が変化するという知見を得た.第二の情動誘発については,昨年度にひき続いて自己の笑い行動を検出し,周りの人形を笑わせるという手法によって効果的に情動を提示できることを示した. さらに日常生活における触覚情動体験の増強を行うため,二つのプロトタイプを製作した.一つは昨年明らかとなった人間の触覚による水面知覚現象を利用した,流体を触覚的に増強して知覚する触覚スーツの開発であり,現在は通常の皮膚と比べてはるかに強い触知覚を無電源で生起させるユニットの開発に成功している.もう一つは日常的な触覚エンタテインメントの一例として「棒バランスゲーム」を取り上げ,これを解析した.解析の結果,棒バランスにおいて掌の触覚が重要な役割を果たしていることを確認した.以上のように本年は情動誘発の一般化に取り組むと共に,手法の面ではさらに情動誘発の振れ幅を増す触体験の生成に取り組んだ.
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