本研究の目的は、遺伝暗号に焦点をあてた構成的アプローチによって、生命を構成するために20種類のアミノ酸全てが必要かという疑問を追求することにある。また本研究は、生体システムの個々の要素を人工進化させた後に組み合わせることで、再びシステムが構築可能であるか、という、構成的アプローチを支える合成技術の最先端の問題を追及するものでもある。研究代表者は、これまでに、特定のアミノ酸、例えば本来トリプトファンを指定するUGGコドンがアラニンに翻訳されるために、どのような遺伝子からもトリプトファンを含まない19種類のアミノ酸のみによって構成されるタンパク質が翻訳される系を確立している。本研究ではまず、この系を活用し、20種類のアミノ酸からなる野生型MS2の感染タンパク質、複製タンパク質、キャプシド形成タンパク質それぞれに対して、本来トリプトファンに翻訳されるUGGコドンがAlaに翻訳されるような「単純化」遺伝暗号表を用いて変異導入と選択を繰り返し、20種類のアミノ酸からなるタンパク質と同等の活性を持ちかつトリプトファンを含まない変異体を得ることを目標とした。一連の研究の結果、複数のタンパク質について、単純化遺伝暗号によって翻訳された場合には活性を持つ一方、普遍遺伝暗号で翻訳された場合には活性を示さない遺伝子を作成することができた。これらのタンパク質を組み合わせてゆくことで、特定のアミノ酸を含まない生命システムが構築可能であると考えられる。
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