本研究では、光活性化型チャンネル及びポンプを脳内の特定の細胞集団に発現するマウスを作成し、光による神経制御と行動測定とを組み合わせることにより、その行動を担う神経回路を解明する新しい技術の開発を目指している。前年度作成したトランスジェニックマウスの発現を調べたところ、期待される細胞集団のごく一部でしか発現していないことがわかった。そこで、本年度はアデノウィルスを用いて脳弓下器官のグリア細胞に特異的にチャンネルロドプシン2(ChR2)を発現させることを試み、狙いどおりに発現することを確認した。また、脳弓下器官では、グリア細胞へのNa^+流入により、グリアからニューロンへの乳酸の伝達が起き、GABAニューロンが活性化することがわかっているが、グリア細胞にChR2を発現した脳弓下器官のスライスに青色光を照射したところ、GABAニューロンの活性化が確認されたことから、光照射によって特定の神経細胞の活動を制御できることが確認された。さらに、前年度に作成した自由行動中のマウス脳内局所領域に青色(445nm)光を照射する装置に改良を加え、NpHRの刺激に適した黄色色(577nm)で出力3Wのレーザーを追加し、レーザーの切り替えによりChR2とNpHRの両方を刺激することが可能な装置を完成した。光ファイバーは、途中で自由な回転を可能とする光学シーベルを介してマウス頭部に装着したプラスチックファイバー製のプローブに接続するが、プラスチックファイバーの捻れ方向への強度が弱いためにマウスが自由行動した際にねじれる問題を解消する補助器具を新たに開発した。さらに、同時に複数の動物で実験を行えるようにファイバー分岐を備えることによって、実用上必要な性能を備えた光刺激装置を完成することができた。以上の成果により、光制御による回路研究法の基本技術が確立された。
|