研究概要 |
シナプス伝達の制御機構を解明することは記憶や学習の分子基盤を明らかにするだけでなく、てんかんや認知症などシナプス機能異常が関与する疾患の病態を理解する上でも重要である。最近、申請者は脳内の主要な興奮性シナプス伝達を司るAMPA型グルタミン酸受容体に関連したシナプス膜蛋白質複合体を精製し、LGI1というてんかん関連蛋白質がADAM22を受容体として機能する分泌蛋白質であり、AMPA受容体機能を促進する新規シナプス修飾リガンドであることを明らかにした(深田らScience 2006)。昨年度はLGI1ノックアウト(KO)マウスの作製に成功し、すべてのKOマウスが激しいけいれん発作を示し3週間以内に致死となることを報告した(深田らPNAS 2010)。本研究では、「LGIファミリー/ADAM受容体の個体レベルにおける生理機能」を明らかにすることを目指す。 今年度はLGI2,LGI3,LGI4の機能解析をLGI1 KOマウスを救済(レスキュー)できるか否かという観点とADAM受容体との結合特異性という点で研究を行った。LGI1,LGI3,およびLGI4をLGI1 KOマウスの脳神経細胞に特異的に発現させたところ、LGI1ではてんかん発作をレスキューするのに対し、LGI3ではレスキューできないことを見出した。興味深いことに、LGI3はADAM22とは結合しないLGIファミリーであった。さらに、現在LGI4によりLGI1 KOマウスのてんかんをレスキューできるか否かを検討するためにLGI4トランスジェニックマウスを作製した。一方、国際共同研究によりLGI2がてんかん発症と遺伝学的に関連があることを見出した(投稿中)。このように、着実にLGIファミリーの生理機能が明らかになりつつあり、今年度の研究計画は達成できたと考えている。
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