研究概要 |
うつ病の発症において、内分泌的変化の結果であるグルココルチコイドの慢性的な血中濃度の増加、そして栄養因子であるBDNF(Brain-derived neurotrophic factor)の発現/機能の低下が密接に関与するとされる。我々は、グルココルチコイド(主としてdexamethasone,DEX)の曝露後のニューロンでは、BDNFが発揮するシナプス増強、および神経伝達物質放出の誘導が阻害される現象を見出しているが、今年度は、特にBDNFによるシナプス増強のメカニズムの一端を明らかにした。 シナプス蛋白質の発現には細胞内シグナルのうちERK経路が重要であるが、DEXはこれを抑制した。その原因として、フォスファターゼのひとつであるSHP2とTrkB(BDNFの受容体)との結合能力の減弱が考えられることを論文発表した。BDNFによる神経伝達物質の放出もDEXで抑制されるが、basic fibroblast growth factor(bFGF)はこれを回復させた(論文準備中)。bFGFによる回復の分子メカニズムを細胞内シグナルの活性化に注目し、引き続き解析中である。グルココルチコイドによるBDNF機能の障害は、BDNF、そして受容体であるTrkBおよび低親和性のp75分子の細胞内動態(移動)の変化によっても説明ができる可能性があり、解析中である。 また、拘束動物を用いたうつ病モデルを作成し、脳内におけるうつ病関連分子の発現を測定した。長期間の拘束ストレスをうけたラットの大脳皮質において、BDNFやその受容体(TrkBやp75)、およびグルココルチコイド受容体の発現量を解析したところ、特にグルココルチコイド受容体の発現低下を見出した。さらに拘束モデルからの脳スライスにおいて、BDNFが調節するシナプス機能の低下を確認した(論文投稿中)。
|