動物の嗅覚器や味覚器は、それぞれに発現する受容体を利用して、外界に存在する化学物質を認識する。申請者が発見した昆虫匂い活性型イオンチャネルは、匂いに対して、活性化、不活性か双方の反応を示す新規の受容体群である。本研究では、その抑制に関与する分子基盤の解明をめざす。本研究計画による受容体・リガンド探索実験により昨年度、カイコガ味覚受容体遺伝子群より昆虫ではじめて果糖受容体(BmGr-9)を見出した。そこで、当該年度における研究実施計画1に基づいて、BmGr-9の一分子レベルでの活性測定を行った。その結果、BmGr-9は果糖で活性化されるカチオン非選択的イオンチャネルを構成することが明らかとなった。さらに果糖以外の六炭糖の構造異性体は、BmGr-9を競合阻害することがわかった。またBmGr-9遺伝子は昆虫で広く保存されかつ、機能未知であるDmGr43a味覚受容体ファミリーに属しており、DmGr43aも果糖に対して電流応答も示すことから、DmGr43a遺伝子群は果糖に対するイオンチャネルファミリーであることが明らかとなった。以上の結果から昆虫の味覚受容体も、嗅覚受容体同様にイオンチャネルを構成し、競合阻害による抑制を受けるという、嗅覚味覚で共通の分子基盤が昆虫の化学感覚で機能していることがわかった。この成果はPNAS誌で報告した。さらに実施計画3により、当該年度において、本研究計画で作成したアミノ酸変異嗅覚受容体を発現する遺伝子改変ショウジョウバエを作成した。変異体の触角から匂いに対する活動電位を測定したところ、イオンチャネルポア形成に関与するアミノ酸残基を幾つか特定することに成功した。その結果、これまでチャネルポア形成に関与すると考えられていた受容体サブユニットだけでなく、嗅覚受容体複合体ペアを構成する全てのサブユニットがチャネルポア形成に関与することが明らかとなり、それまで謎とされた昆虫の匂い受容機構の全容が明らかとなった。以上の成果はPLoS One誌に報告した。
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