研究課題/領域番号 |
21680037
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
真下 知士 京都大学, 医学研究科, 特定准教授 (80397554)
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キーワード | てんかん / ラット / 疾患モデル / ENUミュータジェネシス / 遺伝子 |
研究概要 |
本研究ではいPhenotype-drivenとGene-drivenの二つのENUミュータジェネシスアプローチにょり、てんかん関連遺伝子に突然変異を有するてんかんモデルラットを作製している。 1)Phenotype-driven ENU mutagenesis : E0739とE1897の二つの自然発症てんかんラットについて、ポジショナルクローニングアプローチを行った。E0739系統では、ラット第4染色体上の電位依存性カリウムチャネルKcna1遺伝子において、S309Tのミスセンス変異を同定した。ヒトKCNAI遺伝子変異は、小脳性の運動失調症状とミオキミアが特徴的に認められるEpisodic ataxia typel (EA1)で報告されている。筋電図EMG解析の結果、筋自発運動twitchingに伴う異常棘波ミオクローヌスと周期性の棘波ミオキミアを確認した。脳波EEG解析では、てんかん様発作に伴い多棘複合及び多棘徐波複合波形の異常脳波を確認した。17℃冷水刺激により振戦、運動失調、てんかん様発作が誘発されることを発見した。これら神経症状は、抗てんかん薬カルバマゼピン投与により抑制された。電気生理学的解析の結果、S309T変異型Kv1.1チャネルは電流応答が欠失していた。以上の結果は、S309T変異によるKv1.1チャネル機能異常および個体レベルでの神経病態発症メカニズムの一端を明らかにしたものであり、国際脳科学誌Brain Researchに報告し、ナショナルバイオリソースプロジェクト「ラット」に動物を寄託した。 E1897系統については、第5染色体上に約2M-bpにまで候補領域を狭め、次世代シークエンサーによるゲノムシークエンスを実施した結果、酸化ストレスに関与する遺伝子においてアミノ酸置換を発見した。 2)Gene-driven ENU mutagenesis : LGI1遺伝子について、ENUミュータントアーカイブKURMAにおいてL385Rミスセンス変異を発見し、顕微授精法によりLGI1遺伝子変異ラットを作製した。ヒトLGI1遺伝子変異は、発作の前兆として認められる幻聴等の聴覚症状が特徴的な常染色体優性外側側頭葉てんかん(ADLTE)で報告されている。ラットL385R変異型LGI1は、細胞からの分泌不全が確認された。ホモ型変異ラットは10日齢より脳波異常を伴う自発性けいれん発作を発症し、17日齢以内に全個体が死亡した。ヘテロ型L385R変異ラットにおいてプライミング音刺激を用いた音刺激誘発けいれん試験を実施した結果、L385R変異ラットは有意に強直間代けいれんを発症することを発見した。この音刺激誘発けいれんは、抗てんかん薬投与により有意に抑制された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、Phenotype-drivenとGene-drivenの二つのENUミュータジェネシスアプローチにより、てんかん関連遺伝子に突然変異を有するてんかんモデルラットを作製することである。これまで研究計画通りに、Phenotype-driven ENUミュータジェネシスによりヒトEA1モデルとしてKcna1変異ラットを開発し、Gene-driven ENUミュータジェネシスによりヒトADLTEモデルとしてLgi1変異ラットを開発した。現在、両ラット系統の詳細な特性解析を行うとともに、残りの酸化ストレス関連遺伝子変異ラットの解析を実施している。
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今後の研究の推進方策 |
Kcna1変異ラットについては既にBrain Research誌に報告しており、Lgi1変異ラットについては現在論文の投稿準備をしている。Lgi1変異ラットについては、さらに音刺激誘発けいれん発症メカニズムの解明研究を進めている。Phenotype-driven ENUミュータジェネシスにより新たに開発された酸化ストレス関連遺伝子変異ラットについては、今後詳細な特性解析を実施する予定である。
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