最初にマグネタイトナノ粒子(MNPs)の細胞中での発熱特性を評価した。水溶液中で作製したMNPsを貪食能を有するマクロファージ細胞の共存下でインキュベートしたところ、顕微鏡観察から細胞が黒く染色できていることが確認できた。次にMNPsを内包した細胞の培養液に600kHzの交流磁場を30分印加したところ、MNPsの濃度が1.5mg/mL以上で8℃以上の温度上昇が確認できた。一方、ガン細胞の一種であるメラノーマ細胞の場合、貪食細胞と同様の手順ではマグネタイトナノ粒子はほとんど取り込まれなかった。 In vitroの実験と並行して、発熱効率の高いMNPsの合成方法についても検討した。不飽和脂肪酸であるオレイン酸とオレイルアミンの混合溶媒中で合成したMNPsは、水溶液中で作製した試料よりも高い発熱効率を示すこと、また、動的光散乱法と電子顕微鏡観察から、この試料はトルエン中では分散状態を維持できることがわかった。一方、肝臓などの臓器を模擬した媒体であるポリビニルアルコールハイドロゲルに対しては分散性を維持的できず容易に沈降した。純水とリン酸緩衝液に対しても同様の結果が得られた。以上のことから、粒子合成後の後処理で親水性を向上する方針に切り替えた。このため、本研究室に所属している前期博士課程の学生1名をドイツ・ボーフム大学生物無機化学研究室へ派遣し、抗体の模擬物質として選定したペプチドをリンカー分子を介してMNPsと結合する手法について検討した。この結果、長鎖のアミン分子やポリエチレングリコールメチルエーテル(PEGME)をマグネタイトナノ粒子の表面に付加することで、水系溶媒への分散に成功した。PEG修飾はMNPsを貪食細胞に捕食されにくくすることが知られており、PEG誘導体であるPEGMEでも同様の効果が期待できる。
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