研究概要 |
磁気温熱療法で熱源として用いられる磁性ナノ粒子は、交流磁場を印加することで磁気モーメントの緩和に由来する発熱を示す。ヒト体内に磁性ナノ粒子を導入して磁気温熱療法を適応する場合、磁性ナノ粒子は(1)高い発熱効率、(2)血液中での分散性、(3)ガン細胞への特異的吸着能、の3点を有することが必要である。熱源に用いられるマグネタイトナノ粒子(MNPs)の発熱効率は、その直径が12.5nmのときに極大となる。しかし従来の水系合成ではMNPsの粒度分布が広くなり,発熱効率が低下する問題があった。そこで申請者は粒子サイズを精密に制御できる熱分解法によるMNPsの合成に取り組んだ。この結果、平均粒子径12.5±1.4nmという均一なサイズのMNPsを得ることに成功した。また、交流磁場照射試験の結果から、この試料の発熱効率は22.5W/gと算出された。 一方、溶媒として用いたオレイン酸とオレイルアミンがMNPs表面を覆っているため、合成後のMNPsは水などの極性溶媒にはほとんど分散しない。この問題を解決するため、合成後のMNPsを両親媒性高分子(ACP)で被覆した。この結果、ACP被覆後のMNPsは水やバッファ溶液に安定に分散することが明らかになった。 ACPはマクロファージなどによるMNPsの貪食を抑制するとともに、ガン抗原を認識、結合する抗体の結合サイトとしても働く期待がある。そこで、モデル反応としてクロスリンカー分子(CLM)を介してACP被覆MNPsとウシ血清アルブミン(BSA)との結合を試みた。MNPsに対するCLMの導入量を増やすとBSAの吸着量が減少した一方、CLMを含まない試料ではCLMを導入した試料よりもBSAをよく吸着した。MNPs表面に存在するオレイン酸イオンがBSAと優先的に結合し、CLMの導入量増大に伴ってオレイン酸イオンとBSAとの結合が阻害されたものと推察される。
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