医療診断技術として広く普及している磁気共鳴イメージング(MRI)が苦手とする測定体の一つに、金属含有体がある。脳の留置電極や骨固定用のボルトなど、金属を含む医療器具は多い。また近年ではMRIガイド下での手術も積極的に試みられているが、手術器具は大半が金属製である。MRIの視野内に金属が入った場合、その周囲は画像の顕著な乱れや信号消失が生じるため、正確な画像検査は困難になる。またMRI撮像中に金属が発熱するため、安全性の問題も大きい。本研究では、MRIの磁場強度を従来の10000分の1のレベルまで下げることで、このような悪影響を受けずに金属含有体の画像検査を可能にするMRI装置を提案し、その基盤技術開発を行うことを目的としている。 超低磁場MRIの開発機を用いて、測定実験を行った。まず、測定体に分極コイルから数mTの磁場を与えることで、試料内の水素原子核を磁化させる。続いて,これと直交する方向に30μTの静磁場を加えることにより、磁化ベクトルは静磁場方向を回転軸として1.3kHzの周波数で歳差運動する。この磁化がもとになり、測定体の上に置いた磁気センサでは、同周波数で変動する微弱な磁場が検出される。傾斜磁場コイルは、静磁場に空間的な傾斜をつける機能を持ち、これは従来型MRIと同様の原理に基づいている。制御用コンピュータ上で各コイルの動作をプログラムし、水を満たしたサンプルチューブおよび実験動物を測定体として、NMR測定実験を行った。信号取得用のSQUIDセンサの出力をもとに、信号対雑音比や感度などの基本的な性能を評価した。 実験と並行して、上記の金属含有体の数値解析モデルを構築し、MRI測定時に発生する交流磁場の分布と、金属部品の発熱量を計算した。
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