本研究では、幹細胞の体内動態を制御する因子を固定化した、幹細胞の動員・増幅能をもつ生体材料からなる"体内インキュベータ"を創製することである。近年、幹細胞の増殖・分化が材料の軟らかさで変化することが明らかにされつつある。平成23年度では、昨年度に引き続き、幹細胞の多孔質材料として、刺激に応答して軟らかさなどの物性が変化する生体材料に関する研究を行った。 まず、昨年度、分子設計を行った糖応答性をもつフェニルボロン酸残基を導入したゼラチンハイドロゲルでは、ハイドロゲルに細胞の増殖・分化を制御する細胞増殖因子を包含させたところ、糖添加に応答して任意のタイミングで細胞増殖因子を放出することに成功した。一方、間葉系幹細胞の骨分化にともなって発現するアルカリ性フォスファターゼの酵素刺激に応答するリン酸基を導入したハイドロゲルを作製したところ、アルカリ性フォスファターゼによりハイドロゲルが軟らかくなり、骨分化がより効率よく誘導されることがわかった。これは、細胞の増殖と分化とでは、最適なハイドロゲルの硬さが異なるため、硬さを変化させることができる生体材料が有用であることを示唆している。さらに、得られた刺激応答性ハイドロゲル表面に幹細胞の分化を制御するEphrinB2などのタンパク質を配向固定化し、骨髄間葉系幹細胞の接着と増殖について評価したところ、EphrinB2を配向固定化することにより、通常の化学固定と比較して、より高い生物活性を示し、骨髄間葉系幹細胞の接着形態が変化することがわかった。以上のように、本研究期間を通じて、体内インキュベータのkeyとなる、生体材料と幹細胞との相互作用を、細胞増殖因子の放出制御ならびに生体材料の硬さの二つの方法で制御する技術を開発することができた。
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