本研究では、重粒子線がん治療における治療計画精度向上を目的として、「高速撮影が可能な医用重粒子線断層撮影(Computed Tomography:CT)法の実験的検討」を行った。方法としては、被写体の背面に設置した増感紙での発光(蛍光)分布を、遠隔より高感度CCDカメラ(Electron Multiplying CCD:EMCCD)で撮影しデータを収集した。本研究では、被写体の上流側に大型平行平板電離箱からなる「リアルタイムビーム強度モニタシステム」を新たに設置し、撮影中に数十マイクロ秒のオーダーで変動する重粒子線照射ビーム強度を補正することを可能とした。実際のCT撮影は、平成23年度放射線医学総合研究所がん治療装置等共同利用研究の申請で獲得した重粒子線加速器のマシーンタイム(年3回)を用いて実験を遂行した。撮影被写体としては、骨と組成が近いためよく用いられるK2HPO4 40%溶液、同様に脂肪と組成が近いためよく用いられるエタノール100%溶液等を使用して、電子密度評価ファントム(直径10mmのテストチューブ6本から構成)を独自に作成し、撮影画像の分解能評価を行った。その結果、10cm×10cmの被写体サイズにおいて、従来の3時間撮影に対して、目標とする10分程度の撮影で、従来の解像度を維持した画像を得ることに成功した(空間分解能1mm、相対電子密度分解能1%)。更に、「各試料における画素値」と「水に対する相対電子密度」の関係は、重粒子線CT理論が示す通り、誤差の範囲内において直線の関係であることが示されたことから、本CT手法の有用性が実証された。尚、本研究成果は、現在、アメリカの放射線科学に関する応用物理学会誌(IEEE Transactions on Nuclear Science)に論文を投稿中である(投稿日:2012.3.17)。
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