研究概要 |
本研究では,隙間通過時の歩行軌道の左右偏寄が,歩行空間の認知の左右差に起因するといえるかについて検討している.過去二年間にわたる研究成果から,歩行軌道における左右偏向性は運動性要因(隙間通過時における着地足の左右)と注意性要因によって複合的に規定されていることを明らかにしている.本年度は歩行軌道の左右偏寄に影響しうる別の要因として,利き目の影響について検討した.実験では右利き目者と左利き目者それぞれ16名を対象として,利き目を遮蔽した場合,非利き目を遮蔽した場合,何も遮蔽しない場合の影響について検討した.その結果,右利き目者の場合,利き目を遮蔽した場合に隙間通過時の歩行軌道が利き目と逆である左側に偏寄することが分かった.これに対して左利き目者の場合,利き目遮蔽による影響は見られなかった.この結果から,右利き目者の場合,隙間通過時の歩行軌道は利き目から入っている情報により強く依存するのに対して,左利き目者の場合,利き目に依存しないことが示唆された. さらに実験では,歩行軌道の左右偏寄が,静止立位時に行う空間二等分課題の左右偏寄と相関があるかを検討した.その結果,右利き目者の場合には,歩行課題と空間二等分課題における左右偏寄に有意な正の相関がみられた.これに対して左利き目者の場合,両者の間に有意な相関関係は確認されなかった.以上の結果から,少なくとも左利き目者の場合,歩行中になされる空間認知には,上肢動作中になされる空間認知とは異なるプロセスが存在するのではないかと推察された.
|