キャベツやブロッコリーなどアブラナ科植物などに豊富に含まれている含硫化合物であるイソチオシアネート類(ITCs)は、動物実験や疫学研究の結果などからも、最も重要度の高いがん予防食品因子の一つであると考えられている。本研究は分析化学的手法(質量分析)とITCsの生物化学的特徴を考慮した統計学的手法(多変量解析)を組み合わせることにより、生体内におけるITCsの標的タンパク質、さらにその標的アミノ酸を網羅的に同定し、多様なITCsの生理活性(解毒酵素誘導や細胞周期停止活性、アポトーシス誘導活性など)の発現メカニズム解明を目指している。初年度(平成21年度)は、benzyl ITC (BITC)およびphenylethyl ITC (PEITC)とウシインスリンを用いたモデル反応系で、本研究課題で提唱する分析法の妥当性を検証し、有効性は認められるものの改善の余地があることが明らかになった。そこで本年度は、まずITCs付加ペプチドMSピークの自動抽出プログラムの精度を向上させるため抽出定義(アルゴリズム)の改良を行った。さらにHPLC分析における移動相の検討や、MS/MS分析におけるcollision energyの最適化、LC-MS分析のためのサンプル調製法の検討などを行った。その結果、本分析法は分析対象ペプチドやMSのコンディションによって多少のばらつきは認められるものの、プロテオーム解析における一般的なタンパク質の検出に用いられているECL試薬と同レベルの検出感度であることが確認された。また本分析法を、ITCs曝露した細胞(ヒト大腸がんHCT116細胞)抽出液の分析へ応用すると、ITCsの標的分子としてmicrophage migration inhibitory factor (MIF)が同定され、MIF_<2-12>ペプチドN末端のNH_2基がITCs結合部位として同定された。
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